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2015-11-21

瑕疵(かし)担保責任の期間・範囲、新民法「契約不適合責任」のまとめ 2020年4月3日加筆


2020年4月1日から新民法が施行されました。特に債権法関係規定を約120年ぶりに見直した大改正となりました。従来の「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へ文言と概念が変更となりました。

文末に「契約不適合責任」についてまとめてあります。

こんにちは、田実です。

もっぱら杭問題が取り沙汰されていますが、賃貸暮らしから購入へと決断する不安は、この事件のように購入後に欠陥が発覚することではないでしょうか。これでは悔い(クイ)が残ります^^;

欠陥や不具合のことを法律用語で「瑕疵」と言います。カシです。瑕疵とは、「本来あるべき機能・品質・性能・状態を有していないこと」を言います。

wikipedia→瑕疵

まずは「瑕疵」について理解を深めてもらい、別の記事でそれを防ぐ方法などについて考えてきたいと思います。

売買取引では、新築・中古物件の別を問わず、引渡し時に問題が表面化していなかった(問題は進行していたが、容易にわかるものでなく気づかなかった)ものが、後日発覚することがあり得ます。今回の事件のように新築物件で、売主(三井不動産)も知らない瑕疵が後々わかることもあります。

このようなことが起こり得るため、売買取引の実務では引き渡しから一定の期間を設けて「その期間中に発覚した不具合(瑕疵)については、売主の負担で直しましょう」と売買契約書で処理の仕方を決めます。あるいは、買主がその瑕疵により「契約の目的」を達することができない場合は、買主は契約の解除(および代金全額の返還と損賠賠償請求の要求)をできるようにしています。

この一定期間のことを「瑕疵担保責任期間」と言い、売主が誰であるか(正確には契約当事者)によって、また新築かどうかによって変わりますので、これをまず知っておきましょう。

①売主が個人・買主も個人⇒中古新築を問わず「引渡し日から3ヶ月」が慣例
②売主は宅建業者・買主は個人⇒中古物件の場合は「引渡し日から2年以上」が決まり
③売主は宅建業者・買主は個人⇒新築物件の場合は一部「引渡し日から10年」だけど契約では「引渡し日から2年」としている
④売主は事業者(≒法人)・買主は個人⇒中古新築を問わず「引渡し日から1年」が慣例

大前提は、民法規定の「瑕疵担保責任を追求できるのは、買主が瑕疵を知ったとき(発見して)から1年以内」です。しかし、これをそのまま現実の取引に利用しては、特に一般個人の売主などは、売ってからずっと安心できないことになってしまいます。

①売主が個人・買主も個人の場合、中古新築を問わず「引渡し日から3ヶ月」が慣例

この場合の関係法令は民法のため、先述の大原則通りですが、売買取引の実務では「引渡し日から3ヶ月」と定めます。結構短いです。

中古物件を購入した後、瑕疵担保期間(3ヶ月)を超えて雨漏りが発見されたとします。この場合は、買主は売主に責任を追求することができません。

品確法(正式な法律名「住宅の品質確保の促進等に関する法律」)では、構造耐力上の主要な部分と雨水の侵入を防止する部分(以下「A」)について、新築住宅の施主(注文者)と施工者(工務店)の間で完成から10年間は瑕疵担保責任を負うことが定めれられています。しかし、これは施主(この場合は売主のこと)ですから、買主から施工者へ要求することができないのです。

こういう最悪なことを防ぐため、買主側ができることはホームインスペクションなどの診断サービスを利用する。もしくは、売主側が「中古住宅瑕疵保険」を利用している物件にするという方法があります。これについては、別の記事でお話します。

『ホームインスペクション』はコチラ(作製中)
『中古住宅瑕疵保険』はコチラ(作製中)

ちなみに、雨漏りが発生してしまったときは、施工者の「不法行為責任」が認められる場合、買主から賠償責任を施工者に要求することができます。これは不法行為責任には、契約関係の有無を必要としていないからです。この場合、損害賠償請求できるのは「建設されてから20年」と「不法行為(瑕疵)を知ってから3年」となります。

また、個人売主の場合、瑕疵の責任範囲を「雨漏り、シロアリの害、構造耐力上主要な部位、給排水設備の故障についてのみ」と売買契約書に明記して、取り決めすることが通例です。

②売主は宅建業者・買主は個人、中古物件の場合:「引渡し日から2年以上」が決まり

宅建業法で民法の規定より厳しく定められています。実務では、この場合の瑕疵担保責任期間を「引渡し日から2年」とするのが通例です。2年より短い期間で契約したとしても、その部分は無効となります。また、瑕疵担保責任を一切追わない、売った後は何があっても知りませんといった通称「瑕疵担保免責」も認められていません。個人売主の場合には、建物が非常に古い時にこの特約を設けることがありますが、これは法律上も有効です。

なお、瑕疵担保責任の範囲は、個人売主の時のように「雨漏り、シロアリの害、構造耐力上主要な部位、給排水設備の故障についてのみ」とは限定せず、「本物件の隠れたる瑕疵について売主は2年間責任を負う」とするのが慣例です。

物件をパーツで2つに分けるとすると「建物本体」「付帯設備」です。柱・梁は本体ですし、クーラーは付帯設備です。

業者売主の場合、原則としてこの付帯設備についても瑕疵担保責任を負うことになっていて、先述のように線引きを定めない条文にします。しかし、これは何でもかんでも直してくれるというものではないです。実際には発生した事象に対して、ケースバイケースで処理していきます。例えば、物件に製造されて5年のクーラーが設置されていて、引渡し時には問題なく作動していたのに、1年半後に壊れたから直してくれと要求されてもそれは自然故障であって、瑕疵とは言い難いですよね^^; メーカーの保証範囲も超えてるわけですから。

③売主は宅建業者・買主は個人、新築物件の場合:一部「引渡し日から10年」だけど契約では「引渡し日から2年」としている

新築物件の場合です。この場合は品確法により、売主は引渡し日から10年間、Aについて責任を負います。実務では「引渡し日から2年」とします。

では、10年ではないじゃないかと思われますが、売主として法律上10年間責任を負うのはAについてです。Aでない瑕疵は「引渡し日から2年」という線引きをしていることになります。

言い換えると、売買契約書では「引渡し日から2年」と取り決めしますが、Aについては10年間責任を負います。ただし、自然劣化によって生じた不具合については売主は責任を負いません。

④売主は事業者(≒法人)・買主は個人の場合:中古新築を問わず「引渡し日から1年」が慣例

最後は売主が事業者の場合ですが、平たくいうと宅建業免許でない法人です。しかし、事業者は法人であるか否かは関係ないので、個人事業主でも事業を営んでいる人は事業者になります。ただし、何故か賃貸物件経営で食べている人は事業者としないで、一般個人売主として契約書を締結することが実務では多いです。

この場合は「消費者契約法」といい、消費者(個人・ユーザー)よりも事業者の方が情報力や交渉力を持っているという前提で、消費者の利益を守る目的でできた法律です。ちなみに平成13年に施行されたものなので、割りと浅い法律です。

実務では、瑕疵担保責任期間を「引渡し日から1年間」とするのが通例です。これは具体的に1年間、と法律で定めているのではなく、個人間取引の「3ヶ月」では短すぎるし、業者売主の「2年間」では重すぎるというところから来た中間点なんでしょう。あくまで慣例ですから。

実際に東京地裁の判例で「3ヶ月では短すぎる」という判断がされているようです。

新民法「契約不適合責任」について

「契約不適合」とは、従来の”隠れた”瑕疵に限らず、例えば売買時に買主が契約不適合の事実を知ることができたとしても売主の責任は免れなくなります。

「契約不適合」とは、引渡された物件が種類または品質に関して契約の内容に適合しないものであることを言います。

これに伴い、売主の責任自体も増します。従来、買主の救済手段は「契約解除」「損害賠償請求」しかありませんでしたが、新たに「追完(修補など)請求」「代金減額請求」も可能となりました。

補修などにより後から契約に適合する状態にする(追完)よう求めることと、それがなされない場合に代金の減額を求められるという権利です。

加えて、買主が権利を行使できる期間も変わります。期間は変わらないものの、従前の瑕疵担保責任では、買主が瑕疵を知った日から1年以内に”損賠賠償請求など”を行う必要があったものの、契約不適合責任では、知った日から1年以内に、売主に”通知”を行えばよいことになります。

また、権利の時効は、従来の「権利を行使できる日から10年」に加え「買主が自らの権利を行使できることを知ったときから5年」となりました。

総合的に見て、買主のけんりを保護し、売主の権利範囲を広げる意味合いが比較的強い改正内容と言えます。

瑕疵担保責任と契約不適合責任の違い

瑕疵担保責任項目契約不適合責任
隠れた瑕疵責任の対象契約に適合していないという事実
①損賠賠償請求
②契約解除
買主が請求できる権利①損害賠償
②契約解除
③追完(補修など)
④代金減額
瑕疵を知ってから1年以内に請求権利行使方法不適合を知ってから1年以内に通知
権利を行使できるようになってから10年時効権利を行使できるようになってから10年 および 権利を行使できると知ってから5年

帰責事由に応じた買主の請求権

買主の救済方法買主に帰責事由あり双方とも帰責事由なし売主に帰責事由あり
損害賠償できないできないできる
契約解除できないできるできる
追完請求できないできるできる
代金減額できないできるできる

※斜め字太字が、法改正された部分

「帰責事由」とは、わざと・うっかりなど責任があると認められることを言います。
『大辞林解説:法的に責任を負わせる事由。その実質は、故意または過失に加えて、信義則上それと同視することができる事情を含む事由があること。』


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