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2020-05-23

新民法で”原状回復”が明文化 国交省ガイドラインとは?


たじつ
たじつ

こんにちは。不動産の顧問業をしております、宅建士の田実です。

原状回復義務とは、このページをご覧になっている方で聞いたことがない方はいらっしゃらないと思います。

原状回復とは、賃貸物件を退去する際に「入居時の状態に戻す」ことです。しかし、自然に汚れたものはどうなのか? うっかり壊してしまったものはどうなるか? など、貸主と借主との間で対立するものであり、また一部の悪質な不動産管理会社によって、高額の請求をされたりすることがあり、賃貸のトラブル事例で一番多いのが原状回復についてでした。

2020年4月に改正民法が施行されましたが、実は旧民法では”原状回復”についての規定がありませんでした。新民法では下記のように明文化されることになりました。

1)改正民法第621条

賃借人は賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借契約が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

【改正民法第621条】

この条文を言い換えると「入居した後に生じさせたキズは、退去するときに修繕する義務を負う。但し、賃借人の責任がない場合にはこの限りではない」となります。

条文を詳細に分解しますと、
①通常の使用によって生じた損傷は賃借人は原状回復の義務を追わない。 
②自然損耗・経年劣化による損耗は、原状回復の義務を追わない。 
③故意・過失によって生じた損傷については、原状回復する義務を負う。 
ということになります。

つまり、「わざと・うっかり(=故意・過失)」生じさせたキズ(損耗)や故障、または明らかに借主の責任が認められる損耗に関してのみ、賃借人は原状回復義務を負うことになりました。

しかし、これだけでは実務上十分ではありません。なぜなら、ようやっと”原状回復義務を負う”ことを明文化しただけであって、具体的なことには触れていないからです。これまでも、実務の面では上記の原則どおり処理してきている(一部の悪質業者を除いては)ので、法律が追いついていなかっただけになります。

2)国土交通省のガイドライン

法律で細かなケースまで規定することは困難ですから、法律を補う形で国交省から原状回復に関わるガイドラインが出されております。

◇原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)  
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000021.html

①<ガイドライン>原状回復の考え方

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版) P.9

まず、①ですが、この部分は物件をグレードアップするものです。ウォシュレット機能付きの便座に取り替えるなど「価値が上がるもの」ですから、オーナーが負担するべきものです。

続いて②は、経年劣化・通常損耗によるものですから、いわゆる「誰が使ってもなる自然損耗」であり、これは賃料に含まれるものであるから、オーナーが負担するものとなります。

続いて③のみ借主の負担すべき範囲ですが、一つは故意・過失によって生じたもの。2つ目は”善管注意義務違反”によるものです。

[善管注意義務] 善良なる管理者として注意を払って使用する義務のことです。賃貸物件は、オーナーから借りて利用するものであるから(自分の所有物ではないから)、当然に注意を払って使用しなければならない、という民法第400条で定められた義務のことです。

この2つのケースに関してのみ、借主が原状回復義務を負う部分とされています。

②原状回復負担区分〜床の場合〜

では、具体事例について、ガイドラインで説明された箇所がありますので、解説していきましょう。

原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版) P.17

まず、赤枠①に関してはオーナーが負担すべき項目です。反対に青枠②は借主が負担すべき項目となります。

①−1に関しては「価値を上げるための修繕」という区分です。床の例では、畳の裏返し・フローリングのワックスがけです。

[補足] ややこしくなるので後述しますが、畳裏返し・フローリングワックスがけ(≒ハウスクリーニング)に関しては、実務では”特約”を結び、借主負担とするのが慣習となっています。ガイドラインはあくまで指針であり、貸主借主の協議によりこの内容と異なる取り決めをすることは、問題ありません。

①−2は「通常損耗・経年劣化」の区分です。具体的には、家具の設置によるへこみ、設置跡、フローリングの色落ちなどです。

続いて②の借主が負担すべき項目の②−1ですが、「善管注意義務違反」と認められる区分です。実際には、具体例に応じて個別具体的に処理することが望まれます。

具体例として書かれていることは、カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミ、カビですが、考え方として「飲み物等をこぼすこと自体は通常の生活範囲と考えられる が、その後手入れ不足等で生じたシミ・カビの除去は賃借人の負担により実施するのが妥当と考えられる」と補足書きされています。

②−2は借主の「故意・過失(わざと・うっかり」の区分です。

これは「床」について説明されたものですが、同様に壁・天井、建具、設備・その他と具体例が書かれていますので、これを基準にすることができます。

繰り返しになりますが、大原則は「価値向上・自然損耗はオーナー負担(①の区分)」「善管注意義務違反、故意・過失」は借主負担(②の区分)です。

3)ハウスクリーニング特約

先程少し触れましたが、床のワックスがけ(≒ハウスクリーニング)に関しては、ガイドラインでは貸主負担を推奨していますが、実務ではそうしていないのが現状です。

よほどひどい住み方をしていない限り、貸主としては原状回復負担を請求することが難しいので、「部屋の清掃だけは負担してくださいね」と事前に了承を取ったうえで、契約を結んでいるのが現状となっています。

もっとも、借主に不利となる契約内容については、特約で結んだとしても(借地借家法の適用のある契約については)無効となりますが、ハウスクリーニング負担の特約は明らかに不利だという解釈にはなっていません。

まとめ

原状回復義務の基準については、国交省から出されたガイドラインに則って処理することが、公平性が高く双方の納得がいきやすいものとなっています。

ガイドラインを基準として、個別ケースで負担を決めていきましょう!


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