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2020-05-27

更新料とは? 平成23年(2011年)最高裁判決の解説から考える有効性について


たじつ
たじつ

こんにちは。不動産の顧問業をしております、宅建士の田実です。

不動産取引でかかる費用は、一般の方には馴染みがなく、業者の言われるままに契約しているのが現状ではないかと思います。

更新料についてもなんとなく”ルールなので”という程度の認識で受け入れて契約しているのが一般的ではないかと思います。

そこで、今回は更新料について解説していきたいと思います。

1 更新料とは?

更新料とは、期間の定めがある不動産賃貸借契約において、期間満了時(=更新する場合)に借主から貸主に支払う一時金のことです。

更新料は、法律で定められたものではなく、商習慣上、取引条件として浸透しているものです。土地の賃貸借契約と建物の賃貸借契約では、考え方が異なります。

[補足] 土地賃貸借契約は一般的に20年・30年と期間が長いため、更新料は高額になります。一方、建物賃貸借契約では、賃料の○ヶ月分という風に、毎月の賃料の倍数になるのが一般的です。

ここでは建物の賃貸借契約について深堀りしてきたいと思います。

更新料の支払う慣習があるのは全国のすべてではありません。国土交通省の調査によると、主に関東地区(東京・神奈川・さいたま・千葉)では多くの場合で更新料がかかり、京都府・愛知県・福岡県は一部に限られ、大阪においては更新料は取らないのが現状のようです。

[参考]国土交通省 民間賃貸住宅に係る実態調査 平成19年6月
https://www.mlit.go.jp/kisha/kisha07/07/070629_3/02.pdf

更新料は、法律で定められたものではないため、法律に反しているのではないか? という議論が止みませんでしたが、2011年に最高裁にて「有効」の判決がなされ、一定の有効性が認められたものとなりました(後に詳述します)。

ものすごくおおざっぱに言えば、更新料とは”賃料の一部”と言うことができ、高額すぎる(賃料の3〜4ヶ月分以上)ことがなければ「有効」であるというのが現状の裁判所の見解です。

2 更新料がない=自動更新

通常、更新料がある契約の場合は、契約期間が満了した時点で、更新契約書を取り交わします。更新時に契約内容を改めることも両者の合意があれば行われることもあります。

更新料がない契約の場合は”自動更新”といって、当初の契約(「原契約」と言います)内容をそのまま継続することになります。例えば、「期間満了の1ヶ月前までに解約の通知がなければ、同期間同じ条件で更新されたものとみなします」というように”同じ期間を自動で延長された”という扱いになります。

3 更新料の有効性について

更新料は2011年の最高裁で認められましたが、高額な更新料までも認められたというものではありません。更新料について、①特約で結ばれていること ②更新料が著しく高額でないことなどが条件になりますが、詳細について最高裁の判決の内容を紐解くことで明らかにしていきたいと思います。

① 更新料裁判における最高裁判決の解説

【事案概要】 京都市内の共同住宅の一室の賃貸借契約・平成15年4月から開始、期間1年契約(更新料:76,000円)・賃料月額38,000円・ 平成16年,17年,18年と更新し更新料支払い済み・平成19年の更新料は支払っていない

【本件賃貸借契約特約内容の一部】
①本件賃貸借契約を 更新するときは,これが法定更新であるか,合意更新であるかにかかわりなく,1 年経過するごとに,上告人に対し,更新料として賃料の2か月分を支払わなければ ならない ②上告人は,被上告人Xの入居期間にかかわりなく,更新料の返還, 精算等には応じない

以下、判決文の「理由」部分の一部を抜粋して解説していきます。以下、本文の引用に読みやすくするよう【】や①②などの番号を追記します。【】のみを呼むのが短文でわかりやすいかと思います。

【更新料は,期間が満了し,賃貸借契約を更新する際に,賃借人と賃貸人と の間で授受される金員である。】これがいかなる性質を有するかは,賃貸借契約成立 前後の当事者双方の事情,更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を 総合考量し,具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和58年 (オ)第1289号同59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁 参照),更新料は,賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり,その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると,【更新料は,一般に賃料の補充ないし前払,賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。】

最高裁判例 平成22(オ)863 理由4(1)

《解説》更新料は、趣旨はいくつかあるものの契約を更新するための対価として認めるのが妥当。いくつかの趣旨とは①賃料の補充的対価 ②賃料の前払い分 が考えられる。

また,【消費者契約法10条は】,消費者契約の条項を無効とする要件として, 当該条項が,民法1条2項に規定する基本原則,すなわち信義則に反して消費者の 利益を一方的に害するものであることをも定めるところ,【当該条項が信義則に反し て消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは,】消費者契約法の趣旨,目的 (同法1条参照)に照らし,【当該条項の性質,契約が成立するに至った経緯,消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を 総合考量して判断されるべきである。】

最高裁判例 平成22(オ)863 理由4(2)イの一部

《解説》消費者契約法10条は、信義則に反して消費者(=借主)の利益を一方的に害する契約内容(特約条項も含む)であれば”無効”となる条文であるが、無効となるかどうかは、①契約が成立するに至った経緯 ②消費者(=借主)と事業者(=貸主)との間に情報の質・量に加えて、交渉力の格差 ③その他の事情、を総合的に勘案して判断されるものである。

[補足] 消費者契約法10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
消費者は事業者に比べて、情報量が少なく、また交渉力が弱い立場にあるから、契約書で締結したものであっても、消費者の利益を一方的に害する内容である場合は、その約定については”無効”とされる、消費者反故を目的とした法律条項のこと

更新料条項についてみると,更新料が,一般に,賃料の補充ないし前払,賃貸借 契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは,前記(1) に説示したとおりであり,【①更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。】また,【②一定の地域において,期間満了の際,賃借人が賃貸人に対 し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であること】や,従前,裁判 上の和解手続等においても,【③更新料条項は公序良俗に反するなどとして,これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であること】からすると,【④更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され,賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に,賃借人と賃貸人と の間に,更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について,看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。】

最高裁判例 平成22(オ)863 理由4(2)イの一部

《解説》
①更新料の支払いは経済的合理性が認められる 
②一部の地域(首都圏・京都など)で”更新料”を支払う慣習があることは公知である 
③更新料条項自体が当然に”公序良俗に反する”として無効にされてこなかった判例がすでに一定数あること
④賃貸借契約の中で、更新料の支払いについて具体的かつ明確に記載され、さらに説明を受けて合意しているのであれば、賃借人と賃貸人の間に情報の格差があったとは言えず、また交渉力が賃貸人に偏っていたとは言えない。

そうすると,【賃貸借契約書に】一義的かつ【具体的に記載された更新料条項は,】更新料の額が賃料の額,賃貸借契約が更新される期間等に照らし【高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基 本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが 相当である。】

最高裁判例 平成22(オ)863 理由4(2)イの一部

《解説》賃貸借契約書に、更新料支払いについて具体的に(更新料の額・支払い時期)書かれていれば、高額すぎることがなければ、消費者契約法10条に当たらず、更新料は認められると言える。

②いくらからが高額すぎるのか?

最高裁の判決例では「賃料38,000円に対して、1年毎2ヶ月分(=2年間で4ヶ月分)の更新料は高額ではない」というものでした。

同じような更新料支払いの最高裁判決の事案は2つあるようで、①月額賃料4万5,000円、契約期間1年、更新料10万円 ②月額賃料5万2,000円、契約期間2年、更新料賃料の2か月分 の2つあるが、最高裁はいずれも”特に高額とは言えない”とし、有効と判断しているようです。

上記解説は、公益社団法人 不動産流通推進センター『平成23年の更新料裁判における最高裁の判決の趣旨と法定更新の場合の更新料請求との関係』の内容を参考にしています。
https://www.retpc.jp/archives/14953/

4 まとめと更新料の今後について

更新料はこの最高裁の例があるように、概ね1〜2ヶ月分程度であれば有効であることが認められました。

今後も当面(5年程度!?)は東京・神奈川などの首都圏や京都などでは、更新料を伴う賃貸借契約に変化ないと思われます。しかし、今後の人口減少やテクノロジーの発達によって東京近辺に住む必要性が薄れ、都心でも空室が増加する可能性があります。

更新料は、更新の時に引っ越しを考えるひとつのきっかけになりますから、更新料をゼロにして、退去防止策をするオーナーが増えることになれば、それが一般的となり、競争力の弱い物件から”更新料なし”が浸透してくる可能性は考えられます。

更新料を取れている地域は、まだまだ貸し手市場の地域であり、家余りがもっと顕著になれば、更新料という慣習もなくなる、つまりは需要と供給で賃貸条件が醸成されていくだと思います。


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