礼金ってなに? 礼金の解釈と裁判例までを解説します
こんにちは。不動産の顧問業をしております。宅建士の田実です。
不動産業界とくに賃貸取引は、昔から続いた慣習を引き続き現代でも踏襲している極めて進歩の遅い業界であります。その中でも際立っているのは”礼金”ではないかと思います。
念の為断っておきたいのですが、”礼金”という制度自体を否定するものではありませんので、ご理解ください。
肯定する否定するというより、昔から続いた商慣習ではあっても、今でも自由契約のもとで礼金契約が成立しているということは、そこには市場原理が働いていて、取引条件として十分に認められたものであるということの認識でおります。
さて、それでは礼金とは一旦なにものでしょうか?
目次
1)謝礼金
諸説ありますが「契約期間中、お部屋を借りさせてもらうことの謝礼金」というの理解が、だいたいどの説にも当てはまる答えになろうかと思います。
つまり、契約期間が2年間であれば「2年間お部屋を利用させてもらいますので、使用するお礼としてお支払いします」といった性格を有しています。従いまして、”礼金は賃料の一部である”という認識が、合点が付きやすい解釈になろうかと思います。
また礼金とは、契約開始時に支払うもので、契約が終了した場合でも返却されないものを言います。この点、敷金はあくまで預り金であり、契約終了時には返すものであります。
2)地域性
礼金は、主に関東圏の一部の賃貸借契約で発生するものです。東京都内でも掛かる地域とない地域があります。おおざっぱに言って、賃貸需要の高い(人気のエリア)では、例外なく1ヶ月の礼金設定があります。また、人気エリアの新築物件に関しては、2ヶ月設定のものもまれに見かけます。
例えば、世田谷区ですと、礼金設定がある物件もあればない物件もあります。大家さんの事情としては、礼金1ヶ月分を設定して2ヶ月空いてしまうのであれば、礼金なしにして1ヶ月で決まればいい、という具合に考えて、礼金ほか”募集条件”を決めるというのが、実情といった具合です。
3)需給バランス
礼金の性質には諸説あるといいましたが、結局は需給バランスによって、礼金を設定してもなお、入居者確保に困らないエリアの物件に関しては1ヶ月分程度の設定がされてますし、需要の低い地域については入居のハードルを下げるため礼金は取らずに募集するということに収斂されるとい言えます。
[補足] ちなみに礼金の性質の諸説とは、①賃貸借契約締結への謝礼 ②賃料の前払い(≒賃料の一部) ③退去後の空室期間に賃料が得られないことへの補償(=空室保証) ④自然損耗に関する原状回復費用(=退去したときの修繕費用) があります。
4)礼金を返さなければならない?
なお、賃貸借契約は住宅であれば通常2年を契約期間として締結するのが一般的です。礼金は、”賃料の一部である”という考え方に則れば、2年の契約にも関わらず契約後に3ヶ月で退去しなければならない事情になった場合、礼金の一部を返さなければならない、というケースがあり得ます。
礼金は賃料の一部であり、2年間建物を利用することを前提に支払う対価という意味合いが強い場合、このような理屈が立ちますし、実際の裁判例でも、一部返却を貸主に命じた事例があります。
短期間の契約がすべてこのように判断されるものでは当然になく、それぞれの契約の背景やその他契約条件を総合的に考慮されるものであります。
5)裁判の一例
・平成21年(ワ)第3443号、平成22年(ワ)第1164号【礼金認めない!】
詳細は省きますが、判決では
契約締結後の関係悪化を慮ってその免除ないし減額の交渉を強硬に主張し難い立場にあるといえるから,原告と被告との間には交渉力の格差が存したものというべきであり,前記礼金支払条項は,信義則に照らして被告の利益を一方的に害するとして(10条後段要件)、10条により無効
とされました。つまり、契約するときに礼金を拒んでしまえば大家さんとの関係が気まずくなるから払いませんとは言えなかった。不動産取引に慣れていない借り手は交渉するだけの力がそもそも備わってない。礼金とは消費者の利益を害するものだ! ということが認められたケースではないかと思います。
おそらく貸主は個人地主のような貸主ではなく、取引に慣れた不動産業者や事業主であったのではないかと推測します。
・平成22年(ワ)第13457号【礼金有効!】
金銭的負担を明確に意識した上で契約条件を比較検討して選択することが可能であったから、信義則に反して消費者である原告の利益を一方的に害するものということはできない。
本件の場合、経過年数(4年)、賃料額、礼金額、更新料額を考慮しても、敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず、無効とはいえない。
契約に際して、十分に(礼金などの)契約条件を吟味できる環境で借主の意思で契約を決めた。貸し手は、借り手の信頼を裏切るような具体的事情があったとは言えないので礼金(および敷引の額)が無効とは言えない!というケースです。
・平成22年(ハ)第27941号【礼金一部返しなさい!】
礼金は実質的に前払い賃料であるから、予定した期間が経過する前に退去した場合は、建物未使用期間に対応する前払い賃料を返還するべきことは当然。礼金は返還しないという合意は、契約期間前退去の場合に前払い分賃料相当額が返還されないとする部分について消費者の利益を一方的に害するものとして10条により一部無効というべきである。
礼金特約を締結すること自体が「民法1条2項に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であるとはいえない。
礼金とは契約期間を利用するための前払い賃料であるから、建物を利用しない期間があれば礼金の一部を返還することは当然。”礼金を返還しない”という合意は、契約期間を満了せずに退去した場合でも適用されるのは、借主の利益を一方的に害するのでその合意は無効だ。しかし、礼金を支払うという特約自体は無効ではない(つまり一部返金しなさい)という判決です。
というのが礼金のケースに応じた”裁判所の判決”でした。参考までに。
6)番外編 ”礼金の乗っけ”には気をつけましょう!!
わたしはオーナー様から物件を預かって、物元として賃貸物件の募集管理を行っていますが、勝手に礼金が上乗せされていることがあります。
なんのこっちゃということですが、ある物件を敷金1ヶ月・礼金0ヶ月で募集していました。すると、ある業者から入居希望者を見つけたので契約させてもらいたいというオファーがきました。
断る理由はありませんので、是非と伝えますと「(礼金)乗っけオッケーですか??」という質問が来るわけです。
これは、本来礼金ゼロで募集しているのにも関わらず、業者がお客さんに紹介するときに、礼金を恣意的に乗せて(つまり礼金1ヶ月にして)紹介していることになります。
なぜこのようなことをするのか? それは、業者は礼金を乗せて賃貸希望者から承諾をもらうことに成功している、オーナーさんは礼金ゼロで問題ないのだから、その1ヶ月分を報酬としていただきたい、という魂胆なんです。
ちなみに、オーナーさんがこれについて「決まればいいから」と承諾してくれれば、借り手さんも”礼1”の承諾をしているので極論は問題ありません(仲介手数料1ヶ月を超えるという議論はここでは置いておきます)。では何が問題であったかというと、もしもこの借り手さんが、その業者でなく取り扱い元の当社に直接問い合わせしてきた場合はどうだったか? そもそも礼金はゼロ設定なわけですから、礼金はかかりませんよね。
つまり、紹介を受ける業者によって”契約条件が異なる”ということが起こっているわけです。物件を探すときは十分注意してくださいね。「いいなこの物件」と思ったときには、 まずネットで検索してみることです。
ポータルサイトで対象物件を確認する「地名+物件名」で検索してみる。紹介を受けている物件の礼金の額よりインターネットで見つかったページのほうが安ければ、それは業者によって「乗っけられた」条件です。
まとめ
1 礼金とは「契約期間中、お部屋を借りさせてもらうことの謝礼金」であり、賃料の一部である、という解釈がほぼ正しい。
2 礼金がかかるのは関東圏の一部や新築物件など競争力のある物件で設定されることが多い。つまり人気のある地域では今後も礼金はなくならない
3 契約期間を満了せずに退去する場合は、”礼金を返すのが妥当だ”ということがある
4 礼金が乗せられた物件がたまにありますので注意しましょう!
弊社は、不動産意思決定のための顧問業務を承っております。企業様におきましては、弊社は社外不動産部として機能し、本業に集中していただくことが可能になります。個人様におきましては、慣れない不動産取引のアドバイザーとして不動産取引を成功に導くお手伝いをさせていただいております。