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2020-05-08

新型コロナウィルス感染症の影響による休業を理由とした「テナント賃料(免除・減額・支払い猶予)」に関する法的解釈について


こんにちは。不動産の顧問業をしております、宅建士の田実です。

新型コロナウィルス感染症による事業の影響は業種によって異なりますが、特に飲食店や宿泊施設・イベントなどの施設を運営する事業者にとっては、大打撃ではないかと思います。一日でも早く通常の経済へ戻ることを願ってやみません。

さて、新型コロナウィルス感染症予防による影響で生じた減収を理由にした、テナント賃料の減額(免除・支払い猶予)の是非については、貸主・借主それぞれの立場から様々な主張や意見が聞こえてきます。以下にまとめる記事では、不動産実務を担っている現場の立場から、関係法令や現場実務に照らした場合の「解釈」についてまとめてみました。

なるべく難解にならぬよう、わかりやすで表現で書きたいと思いますので、今現在このような問題で困っている方々の一助となれば、幸いに思います。

新型コロナウィルスによる賃貸借契約への影響は、言うまでもなく過去に例がなく、下記内容については、あくまで現在の法令から考えられることを、私自身の経験則から解釈としてまとめたものであり、第三者に保証できるものではないことをご承知おきください。

ベースは当事者間の契約内容、次に借地借家法および民法の解釈

まず、第一に念頭に置かなければならないことは、“賃貸借契約書(=契約内容)“を構成する主要な関係法令には「民法」と「借地借家法」という法律があり、利害の対立する立場の者が、法のもとで正義の判断をする場合はこれらの法令が”大原則“になります。

また、契約内容の基本骨子は法律に則って作成されますが、貸主・借主間において、その契約を締結したときの個別の事情や背景による、特殊性を考慮した“契約内容”を約定していることが一般的であり、すべての事案に共通する答えを導くのは困難であります。個別に判断するのが本来であることをご理解いただけたら幸いです。

つまり、新型コロナの影響によりテナント賃料の免除・減額や支払い猶予が “認められる” あるいは”認めるべきでない”と判断するには、まずは当該事案の“賃貸借契約の内容”を優先して考慮し、その上で、契約内容の解釈について“民法”と“借地借家法”をベースに判断し処理するのが原則となります。

休業の決定は、賃貸人の判断によるものなのか、賃借人の独自判断か、あるいは不可抗力によるものか?

次に考慮すべきことは、休業の原因が不可抗力であったか、そうでないか? 不可抗力でない場合には、休業の判断を賃借人自らしたのか、あるいは賃貸人の指示によって賃借人が休業したのかによって判断が分かれてきます。

賃貸人の判断による休業

新型コロナウィルスの感染拡大防止のため、ショッピングセンターなど大型商業施設は賃貸人の判断で「全館休業」の対応を取る場合が現状多く見受けられます。この場合は賃借人はその指示に従ったことになりますから、賃料の免除を得られると言えるでしょう。猶予でも減額でもなく、支払い免除を受けられるとするのが妥当と考えられます。

賃借人の判断による休業

逆に、休業が賃借人の判断による場合は、基本的には賃貸人は賃料の減額や猶予ならびに免除に応じる必要ないと考えられますが、今回の新型コロナの感染拡大を防止するに当たって、賃借人の判断のみによって休業するということは少々不自然なことです。新型コロナに対する「政府からの休業要請」に応じた結果、賃借人の判断で休業した、というのが正しい背景であると言えます。

したがって、賃借人の原因でも賃貸人の原因でもない、いわゆる「不可抗力」による休業である、ということも十分に考えなければなりません。つまり、新型コロナウィルス感染症の影響による休業の場合、賃貸人および賃借人のいずれの判断とも言い難い場合や、“判断”というより“休業せざるを得ない”という社会背景があり、いずれか一方のみに休業の原因があると言えないケースが多く生じているということです。

不可抗力による休業

では、次に不可抗力(=賃貸人・賃借人いずれにも責任がない)と考えられるケースについて考えていきたいと思います。

政府は令和2年4月7日に発出した緊急事態宣言に伴い、事業者に対して、事業の休業などについて ① 協力の要請 ② 施設の使用制限または停止の要請・指示 ③左ふたつの公表 ができるようになりました。※1

※1[補足]正確には、内閣官房新型コロナウィルス感染症対策本部が決定した“新型コロナウィルス感染症対策の基本処理方針”によって発出された“緊急事態宣言”で、指定された区域(当初一部その後全都道府県)で、事業者に対して“新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「新型インフル対策特措法」といいます。)に基づく行動計画を実施するための必要な協力の要請(=上の①)などができるようになりました。

平易に言い換えると、事業者に対して、
①休業の要請 
② 施設休館・休業の要請と指示 
③ ①・②に関する公表 
というものです。

このうち①に関しては、法的義務を課すものではなく、“任意の協力”を求めるものに過ぎません。実際に、緊急事態宣言の指定区域内の大学・学習塾、運動・遊戯施設、集会・展示施設、商業施設、一定の遊興施設に対して「休業要請」がなされましたが、これは法律上の位置付けとしては強制力のない「お願い」ということになります。※2

※2[補足]緊急事態宣言を受け、4月10日、東京都は、特措法に基づき、映画館やライブハウス、スポーツクラブなどのほか、床面積が1,000㎡を超える商業施設に休業を要請しています。

次に②に関しては、「施設の使用制限」を施設管理者に“要請および指示”ができるというものです。少々ややこしいですが、「要請」であれば、それに応じる法的義務はないと解釈できますし、一方「指示」については、法的義務を課されたものだと解釈できます。

上記のことを現場のケースに例えてみると、不特定多数かつ大人数が集まるいわゆる“中規模以上の施設”に関して、行政より施設休館の「指示」があった場合には「不可抗力による休業であった」と言うことができるでしょう。

反対に、小規模・零細の商店に関しては、あくまで「要請」レベルであるため、休業は「不可抗力ではない」という解釈になろうかと思います。

休業要請・指示に対する賃料免除の解釈について

これまでのことをもとにすれば、下記のようにまとめることができると思います。実際には、ケースに応じた判断であるため、一律に線引きすることは困難であり、必ずしも下記の解釈が正しいものではありません。

1) 緊急事態宣言による行政からの“休業指示”に貸主が従った場合

⇒対象物件の利用について、不可抗力により制限されたのであり、利用できない期間の賃料を貸主は免除するのが望ましい

2) 緊急事態宣言による行政からの“休業要請”に応じ、施設所有者が休業に応じた場合

⇒施設の休業自体は貸主の判断であり、法的強制力があったわけではないが、事実上そうせざるを得ない社会的背景から実施した休業であるため、不可抗力によるものと言える。借主が利用できない期間については、賃料が免除されるものとして処理して良いと思われる

3) 緊急事態宣言による行政からの“休業要請”に応じ、借主の判断で休業した場合

⇒休業しなければならない社会的背景が根底にはあるものの、ただちに借主の賃料支払い債務が免除されるとまでは言い切れず、個別具体的な事情に応じ、契約内容を原則とし、貸主・借主協議の上処理をする。ただし、休業することについて、貸主の承諾を得ていた場合には、その承諾の範囲内で賃料支払が免除されると考えられる。

4) 緊急事態宣言による行政からの“休業要請”に応じ、貸主・借主の協議の上で、休業した場合

⇒協議した際に賃料支払について特段の定めを約定していればそのとおりに処理する。していない場合は、さらなる協議による。

休業に伴う賃料の「減額」について

続いて、賃料の“減額”について考えていきます。賃料の減額については、今年の4月から民法が改正されました(以下「改正後民法」といいます)。改正後民法には、賃借物の一部が使用収益できなくなった場合、その割合に応じて減額される旨が定められましたが、改正後民法が適用される賃貸借契約はまだ少数であるため、ここでは改正前民法の場合についてのみを深堀りしていきたいと思います。

借地借家法32条1項では、賃借人に対し、一定の場合に賃料の減額を請求できる権利(以下「賃料減額請求権」といいます)を定めているため、この賃料減額請求権を行使して減額を求めることが考えられます。

また、賃料減額請求権が認められる場合には、現状の賃料が“不相当”であると判断されることが必要であり、以下のような要素が判断材料になると言われています。

①土地もしくは建物に対する租税その他の負担の減少 
②土地もしくは建物価格の低下 
③その他の経済事情の変動 
④近傍同種の建物賃料の変動 
⑤現行の賃料が定められてからの相当期間の経過 
⑥当事者間の主観的個人的な事情の変化 
⑦賃貸借契約締結当時の当事者間の特殊事情の解消

[参考]【借地借家法32条(借賃増減請求権)】建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

注意点としては、ここでの賃料減額請求権とは、未曾有の新型コロナウィルス感染症による影響についてまで想定された条文ではなく、ある程度長期的なインパクトを持つ経済変動による「賃料相場」の増減を想定して定められたものであります。

したがって、借地借家法32条1項を理由に、新型コロナウィルスの影響による休業の賃料減額請求は現時点では認められにくいと考えられます。

つまり、言い換えると、現時点では新型コロナウィルス感染症の影響は、経済へ大打撃を与えているものであることは言うまでもありませんが、「将来に渡って長期的に」相場が下がったとまで結論づけることは適当ではないということになります。

なお、上で掘り下げてた内容は、あくまで借地借家法32条1項による“賃料減額請求”について、新型コロナウィルスの経済的背景を当てはめた解釈ですので、すべてのケースで賃料減額請求が認められないというわけではありません。

大切なことは、過去の法律に当てはめて権利の正当性を論じるのではなく、貸主・借主双方が長期的な視野で、誠実に処理していくことが望まれるのではないかと思います。まさに、新型コロナウィルス感染症は未曾有のことであり、判例や現在の法律の枠組みだけで解決すること自体に限界があることを、まず念頭に置かなければなりません。

休業に伴う賃料の「支払い猶予」について

新型コロナウィルス感染症による事業への影響については、ある程度の収束の見込みが立った上で、どの程度の損失が生じるのかを見積もらなければ、損失の全体像は見えてこないものであります。

しかし同時に、新型コロナウィルス感染症による事業の売上減少は、「一過性のもの」である可能性が相応にあると考えられますから、“賃料の支払猶予“の方法がもっとも理にかなった解決方法ではないかと私は考えています。

国土交通省からも、令和2年3月31日付けで、賃貸用ビルの所有者など飲食店をはじめとするテナントに不動産を賃貸する事業を営む事業者に対し、飲食店などの賃料の支払いについて、支払い猶予に応じるなど、柔軟の措置の実施を要請しています。

これまで説明してきたように、行政からの休業指示に貸主が応じた場合や、休業要請により自主的に貸主がビル自体の休業を実施した場合の賃借人の“賃料免除”は認められるものと考えられますが、このようなケースは極めて少ないものです。

不動産市場のほとんどは中小零細のビル事業者でありますから、賃料免除に該当するケースは稀であり、また免除することによる貸主の損失も計り知れません。新型コロナウィルス感染症が、幾分「一過性の」経済損失である性質が見えている現状認識に立てば、収束した後に一定期間を定めて、コロナ自粛期間の賃料を分割払いにするのが望ましいと私は考えます。

あるいは、コロナの終息が見えてきた(経済活動が戻ってきた)段階で、コロナ禍期間の賃料の減免額を貸主・借主にて協議して決めてさかのぼって処理するのがいいのではないかと考えます。

具体的には、売上が50%下がったので○%下げてください、売上は30%ダウンだけど、固定費は平常時と変わらずかかっているので○%減免で、という風にです。

さいごに

なるべく平易にまとめようと思いましたが、要旨が伝わったのかどうか幾分心配ではあります。

貸主・借主の立場によって、主張は対立するものではありますが、賃貸借契約はお互いの長期的な信頼関係の上に成り立つものであり、コロナのような異常事態にあっても、誠実に協力しあって解決することが最も大切なことです。

支払猶予に応じた貸主に対する、政府の支援策は未だ着地が見えません。また、休業要請に応じた事業者に対する支援策も十分であるか否かの議論は残りますが、いずれにしましても個別の事情に合わせた各支援策を貸主・借主ともに活用した上で、足りない部分を歩み寄って協議していくことが、建設的であると思います。


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