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2019-08-08

賃貸借契約書チェック #借主負担修繕の貸主指定業者条項について


賃貸借契約書とは、契約期間中に起こることを予め想定し取り決めをするものです。通常、オーナー側についている不動産業者が契約書を作成して、その内容の通り契約することが一般的です。したがって、条項の中にはテナント(借主側)にとって明らかに不利な内容が含まれていることがあります。

今回の事案は不特定多数のお客様が来店する店舗の賃貸借契約ですが「修繕義務条項」においてテナントにとって望ましくない条項が含まれておりました。『一、…貸室内の美観維持を目的とした小修繕ならびに乙(テナント)の責めに帰すべき事由により生じた修繕は乙がその費用を負担する。二、前項但し書きにおいて乙が修繕を行う場合は、甲(オーナー)の指定する業者に行わせるものとする。』

顧問先のクライアント様(テナント)は、美観を重視することもあり契約期間中にクロスの張替えやフロアカーペットの張替えを行うことが多くあります。また、大手インフラ企業の代理店であるため、店舗レギュレーション(店舗作りの決まりごと)の細かな規定がある業界です。したがって、その規定に不慣れな業者が施工を行ってはトラブルのもとになりますし、もっとも「美観維持を目的」とするテナント負担の工事がオーナー側の指定業者であるのはおかしなことです。

オーナーとしては、大切な財産にもしものことがあってはならない、と業者を指定したいとの要望を理解もできますが、美観維持のような小修繕にまで限定されてしまうのは考えものです。この部分について、修正の希望を申し出て結果的には「修繕を行う場合は、協議の上で行うものとする」という形で着地となりました。

蛇足ですが、本事案では業務用エアコンがサービス品(オーナーに修繕義務のない設備)でした。これもよくあるケースで、前のテナントが設置して残されたもの(残置物)だから使用してもらう分には問題ないが故障の責任は持ちませんというものです。しかし、テナント側からすれば、サービス品(もらったもの)が仮にすぐ故障して修理しなければならず、その上で業者指定というのではあまりに酷なわけです。

東京都内(その他地域でも街の中心部)の不動産取引現場ではテナント需要が高いため、契約条件を一切交渉できない場合が多くあります。本来「協議の上」という取り決めは「何も決めていない」「問題を先送りにしているだけ」という意味から望ましいものではありませんが、ケースバイケースで希望を譲歩とを押し引きすることで着地を模索することになります。


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